起業独立の事例です。50代のA社長は、長年のサラリーマン時代を堅実に過ごし、夢だった独立をしました。商品は、オフィスや家庭に設置するウォーターサーバーです。いつか独立しようと思い続けて、ある日、そのウォーターサーバーに出会い、これだっ! と、思ったそうです。

それからの行動は早かった。退職金と銀行融資を受けて、独立の創業資金は充分だったようです。
まず、A社長は、ウォーターサーバーのメーカーの代理店契約を結び、設置機器と、半年分のウォーターの在庫を仕入れました。それと同時に、戸建ての店舗を賃貸契約して、オフィス機器を揃えました。パソコン、プリンター、デスク、電話、コピー機、FAX等。そして、店舗にも立派な看板を掲げました。また、営業マンと事務職の方を雇い、営業車両も購入しました。販促物もチラシ、パンフレット、ホームページと抜かりなく準備万端です。

準備段階の時に、弊社も何度となく販促物の打合せをさせて頂きながら、いくつかお尋ねしました。
弊社:「見込み客はどの位いらっしゃるのでしょうか」
A社長:「独立を友人達に話したら、みんなすぐに契約してくれると言っていた」と満面の笑みでした。
いよいよ、事務所オープンが間近に迫ったころ、また質問をさせて頂きました。
弊社:「見込み客になられる方の名簿を作ってみてはいかがですか。」
A社長:「・・・・」

事務所オープンしてから1か月後、事務所を訪問させて頂いたら、A社長がひとりでポツンとデスクにいました。
弊社:「他の社員さんはどうされたんですか」
A社長:「・・・。実は、辞めてもらった」とのこと。
弊社:「どうしてですか?」
A社長:「見込み客の予定だった友人知人は、実際に営業に行ってみたら、ことごとく断られた。今は、営業活動が怖くなってしまった。夜は眠れなくなり、病院に通っている」
弊社:「これからどうされるのでしょうか」
A社長:「・・・・」

この1か月後に、A社長の事務所は、店舗も解約し、メーカーへ在庫を返却し、車やオフィス機器も全部引き取って貰ったそうです。
A社長はどこで道に迷ったのでしょうか。
1. 最初にオフィスという器を用意しなくても開業できたのではないか。
2. 軌道に乗ってから社員を雇うという方法もあったのではないか。
3. 在庫を抱えすぎたのではないか。
4. 友人知人の社交辞令の言葉を鵜呑みにしてしまったのではないか。
5. 独立そのものがゴールになってしまったのではないか。
6. 創業時から銀行融資を受けるのは早すぎたのではないか。
上記のようないくつかの要因が考えられます。
その後、A社長には、手持ち資金はなくなり、銀行融資の金額は、そのまま借金として残りました。現在、A社長は、再びサラリーマンに戻り、少しずつ返済されているとのことです。
起業独立することは、意外に簡単にできます。でも、経営を軌道に乗せるのは簡単ではありません。